少子化と反比例するように学習塾が増えている近年、塾同士の競争はどんどん激しくなっています。それと同時に、講師不足や集客の難しさといった学習塾ならではの課題も問題視されるようになりました。こうした課題を解決するカギとして注目されているのが、DX化つまりデジタルトランスフォーメーションです。
そこで今回は、学習塾ならではの課題の解決に役立つDX化とは何か、そして学習塾がDX化を進めることで得られるメリットについて解説します。
目次
1. 学習塾が抱える3つの課題

学習塾業界はめざましい成長を遂げている業界のひとつであり、近年は小学校低学年や幼稚園のうちから塾に通う子どもも増えています。
その一方で、多くの学習塾経営者は次のような課題に直面しています。
1-1. 塾講師の人手不足と長時間労働
多くの学習塾ではアルバイトの大学生講師が活躍していますが、少子化によって大学生講師のなり手は減少傾向にあります。
講師の人手不足が進むと、慢性的な長時間労働が増えやすくなります。1人の講師が担当する生徒数が増えると、授業前の準備や日報作成といった授業時間外の業務負担も重くなりがちなためです。
長期休暇中もゼミの勉強やサークル活動などで忙しい大学生にとっては、夏期講習や冬期講習なども大きな負担になります。これらの業務負担によってアルバイト人材が流出するとますます人手不足が進み、正社員講師はもちろん生徒や保護者たちにとっても大きなダメージになりかねません。
1-2. 生徒の教育格差の拡大
経済的に余裕のある家庭ほど子どもの教育にお金をかけやすく、学習塾や通信教育などを活用して子どもの学習機会を増やしているケースが多々あります。そのため、子どもの成績が上がりやすく、私立校や大学・大学院などへの進学率も高めです。
一方で、経済的に余裕がない家庭では教育にお金を回しにくく、子どもの成績も上がりにくい傾向があります。中には、子どもがヤングケアラーになるなどして勉強に時間をかけられないケースも決して珍しくありません。
経済的格差に加えて、地域格差も教育格差拡大の一因となっています。地方では都市部と比べて学校や学習塾などの選択肢が少なく、さらに講師人材も不足しがちです。こうした教育格差は将来の就職格差や生涯年収の差につながるだけでなく、子どもの自己肯定感がうまく育つかどうかにも影響を与える恐れがあります。
1-3. 集客の難化
少子化によって子どもの数が減っている一方で、学習塾の新規参入は増加しています。子どもの数が減ったぶん子ども1人あたりの教育費が増えつつあり、学習塾に対するニーズも多様化していることが大きな理由です。結果として、学習塾同士の競争は激化しており、生き残るためには他との差別化を図り確実に結果を出すことが欠かせません。
いくら授業の品質がよくても、集客スキルや運営ノウハウが足りないと他の学習塾との競争に勝ちにくくなります。多くの生徒に入会してもらい、かつ長期間利用してもらうためには、サービス内容を充実させて生徒や保護者の満足度を高めることがカギとなります。地元密着型の学習塾では、Web広告やチラシに加えて口コミも重要な集客ポイントです。
2. 学習塾の課題解決に向けた「DX化」とは

学習塾が抱える課題は、年々複雑化しています。こうした課題解決のカギとして期待されているのが、学習塾の「DX化(デジタルトランスフォーメーション化)」です。
学習塾におけるDX化とは、紙ベースの業務をICT化するだけでなくAIやクラウド、データ分析ツールなどのICT技術を使って塾全体の仕組みを見直す取り組みです。DX化が進むことで、授業の進め方はもちろん講師の業務管理や生徒・保護者対応などのあり方も大きく改善できると期待されています。
近年の学校教育現場では、「GIGAスクール構想」に基づき、子どもたちの学習環境が大きく変化しています。1人1台の端末が整備されたことで、子どもたち一人ひとりの理解度や特性に応じた最適な個別学習が可能になりました。さらに、コロナ禍を契機としてオンライン学習の環境も急速に整備され、教育のデジタル化は一気に加速しました。
こうしたICT教育への対応は学習塾においても重要な課題となっており、DX推進の必要性はこれまで以上に高まっています。
3. 学習塾のDX化が進まない理由
教育業界のDX化が重要視されている一方で、DX化が進んでいない学習塾も少なくありません。学習塾のDX化を阻む主な要因は、次の通りです。
●インフラ整備にかかるコストの負担
学習塾のDX化には、生徒一人ひとりが用いる端末はもちろん大容量通信に耐えうるネット環境やクラウド環境も欠かせません。これらは一度準備すれば終わりではなく、定期メンテナンスや修理などにもコストがかかります。小規模な学習塾の場合、こうしたインフラ整備費用が大きな負担になることもしばしばです。
●セキュリティリスクへの懸念
いくらインフラを整えても、運営者側のICTリテラシーが不十分であれば安全運用が難しくなります。生徒の個人情報の取り扱いに不備があったりセキュリティ対策を怠ったりすると、情報漏洩などの重大なトラブルを引き起こしかねません。
また、講師や運営者がICTをうまく使いこなせないことで教育の質が低下する懸念もあります。DX化を安全に進めつつ最大限の効果を得るためには、全スタッフのICTリテラシー向上や機密データの取り扱いに関するガイドライン整備などが必要です。
4. 学習塾がDX化に取り組むメリット

学習塾がDX化に取り組むことで、学習塾運営者はもちろん学習塾に関わる講師や生徒、そして保護者にとってのメリットが生まれます。
学習塾のDX化によって生じる主なメリットは、次の通りです。
4-1. 塾講師の長時間労働の是正
採点や集計などの業務を自動化することで講師の仕事量が減り、採点ミスやプリント紛失といったヒューマンエラー防止に役立ちます。学習塾の方針によっては、オンライン講師として在宅勤務してもらうことで、講師の通勤負担軽減や働きやすさ向上に貢献できます。
大学生講師の場合、講師の仕事と学業やサークル活動などとの両立に悩むケースが少なくありません。とは言え、年度途中で講師が退職すると生徒や保護者に迷惑をかけてしまうことも事実です。学習塾のDX化によって講師の長時間労働を是正し定着率を高めることは、生徒が安心して学べる環境づくりにも役立ちます。
4-2. 生徒一人ひとりに適した学習プログラムの提供
学校のような集団授業では、授業内容に理解が追いついていない生徒はどんどん置いてきぼりになってやる気をなくすことがよくあります。反対に飲み込みが早く自分で学習ペースを上げられる生徒も、授業をつまらなく感じてモチベーションを低下させかねません。
こうした事態を防いで生徒の理解度とモチベーションを高めるためには、生徒一人ひとりに合った学習プログラムの提供が有効です。
近年は生徒の理解度や強み・弱みに合わせた学習プログラムを自動作成するAIが普及しており、つまずいた問題があれば理解できるまで繰り返し取り組むこともできます。さらに「苦手を克服したい」「得意分野をもっと伸ばしたい」といったニーズの違いにも対応しやすくなり、生徒の満足度向上につながるでしょう。
4-3. 子どもの学習進捗の見える化
子どもを学習塾へ通わせている保護者の中には、「子どもがちゃんと学習塾へ行っているだろうか」「どんな勉強をしているのだろう」などと心配する方も少なくありません。
しかし、保護者がスマホなどで子どもの学習進捗や入退室時間を確認したり、講師と直接連絡を取ったりできる仕組みを作ることで、保護者に安心してもらいやすくなります。
また、保護者が家庭でも子どもの学習をサポートできるよう、保護者向けページに今後の授業予定や講師からの指導コメントを掲載するなど、情報共有の工夫も有効です。
まとめ
学習塾におけるDX化とは、さまざまなICT技術を駆使して学習塾全体の仕組みそのものを見直す取り組みです。DX化が進むことによって、講師の労働環境改善や生徒・保護者の満足度向上、そして集客力向上などに役立つと期待されています。学習塾のDX化は、学習塾業界の激しい競争に勝ち抜くための武器と言っても過言ではないでしょう。
「@pocket」は、生徒の出欠管理や講師のシフト管理、そして授業予定表作成などを一元管理できる業務管理ツールです。ICTに不慣れな人も直感的に使えてセキュリティ対策も万全なため、紙ベースやExcelでの業務が多い学習塾の現場でもスムーズに導入できます。さらに導入・維持コストも低く、予算が限られている中小規模の学習塾にもおすすめです。