この記事のまとめ
この記事では、在庫管理の改善事例5選を、属人化解消という観点から整理します。
担当者の経験や勘に依存した在庫管理は、欠品・過剰在庫・誤出荷を招き、引き継ぎも困難にします。可視化・標準化・自動化の順で進めることが、改善を定着させる進め方です。
- 属人化が招く損失を、まずアナログ運用の実態から把握します。
- データ統合基盤・ERP・MES・AIエージェント・需要予測AIの5事例を紹介します。
- ムダ・ムラ・ムリの特定からKPI設定まで、進め方の型を示します。
- ツール導入を先行させず、業務改善を前提に置く姿勢を確認します。
在庫管理の属人化が招く経営リスク
属人化が生む欠品・過剰在庫・誤出荷
在庫管理が特定の担当者に依存すると、欠品・過剰在庫・誤出荷という三つの損失が同時に起こりやすくなります。
古い設備を抱える製造現場では、稼働状況や製造情報の集計結果が管理部門へ届くまで時間がかかり、作業の属人化が業務の標準化と効率化を妨げる要因になります(参照 *1)。
曖昧な在庫管理による過剰在庫は、保管コストや値引き・廃棄を招き、逆に欠品は販売の機会を逃す要因となります。
つまり、属人化そのものが直接の損失ではなく、情報伝達の遅れと在庫実数の曖昧さを介して損失へとつながっています。
業種によって在庫の性質は異なりますが、担当者ごとに手順が違う状態を放置すると、欠品と過剰の両方が同じ現場で並行して発生する構図が生まれます。

アナログ管理と“見えない損失”の実態
アナログな在庫・物流管理が広く残り、損失が金額で見えていない実態を数字で確かめます。
Shippioの調査によると、物流コストの管理不足による見えない損失を経験した企業は72.0%に達し、損失を金額で把握できている企業は21.3%にとどまりました。
同調査は、貿易・輸出入業務の76.3%が電話での個別問い合わせや貿易書類の手入力といったアナログ手段に依存し、専用システムでの一元管理は28.3%であることも明らかにしました(参照 *2)。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、DX推進の成熟度がレベル0からレベル2未満に偏り、レベル4以上の企業は全体の1%にとどまることを公表しました(参照 *3)。
これらの数字は、貿易・物流分野を中心に、アナログ運用と属人化が損失の可視化を阻んでいる構図を示しています。
在庫管理改善の全体像と5つのアプローチ
可視化・標準化・自動化の三本柱
在庫管理の改善は、可視化・標準化・自動化の順に積み上げるのが基本的な考え方です。
公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会は、既存業務のムダ削減に取り組まないまま投資を行うと、ムダを残したまま自動化やシステム化が進み、投資効果が削がれると指摘しました。また、業務のばらつきである「ムラ」を放置することが、品質の不安定さだけでなく作業の属人化を招く原因になるとまとめました(参照 *4)。
この整理から読み取れるのは、標準化を飛ばして自動化に走ると、属人化した手順がそのままシステムへ移植されてしまう危険です。
そのため、まず現状の在庫業務を見える化し、手順のムラを削ってから、機械や仕組みへ渡す順序が有効になります。可視化と標準化は準備作業ではなく、自動化の効果を左右する本体工程だと捉える視点が欠かせません。
在庫情報の可視化から始める場合、必ずしも最初から大規模なシステムを導入する必要はありません。
たとえば、クラウド型ノーコードデータベース「@pocket」では、自社の管理方法に合わせて在庫管理用のアプリを作成し、Excelや紙などに分散していた情報を一元管理できます。まずは現在の在庫状況を共有できる環境をつくり、運用しながら管理方法を整えていく方法もあります。

5つの改善事例の位置づけ
5つの事例を、三本柱のどこに効くかで位置づけます。
データ統合基盤は、システム間で分断された在庫データをつなぎ、可視化の土台をつくります。ERPは受発注・在庫・会計を一元化し、標準化と自動化を同時に進めます。
MESは製造現場の在庫と工程進捗を見える化し、AIエージェントは人・設備・在庫・進捗の情報を統合して自動化の範囲を広げます。
需要予測AIについては、十分な量・質のデータや需要の規則性などの条件が整う場合、複雑なデータ分析を自動化することで予測精度の向上や、属人的な勘や経験に頼った運用からの脱却に役立つ可能性があります。ただし、データ不足、急激な需要変動、過去にないイベントなどでは、予測精度が低下する場合があります(参照 *5)。
こうして並べると、5つの事例は独立した選択肢ではなく、可視化から自動化へと段階を進めるための道具立てとして重なり合っています。自社の現在地に応じて、どの層から着手するかを見極めることがポイントです。
在庫管理の改善事例5選
事例1: データ統合基盤による属人化解消
最初の改善事例は、倉庫システム間のデータ連携を仕組み化した取り組みです。
Hacobuの発信によると、倉庫の現場ではシステム間のデータ連携が手作業で行われ、倉庫管理システム(WMS)と統合基幹業務システム(ERP)の橋渡しや取引先ごとに異なる変換ルールの多くが、特定の担当者の経験と手順書に依存し、データが「使えない資産」として眠り続けています。
同社は、整理されたデータを自動で体系的に蓄積して一覧で管理し、どのシステムからでも参照・再利用しやすい形で参照・再利用できる状態を維持することで、連携処理が走るたびに資産が積み上がる構造をつくり、データの属人化を防ぐと説明しました(参照 *6)。
この事例の学びは、在庫データを見える資産に変える前提として、システム間の連携そのものを担当者から切り離す設計が必要になる点です。
手順書に頼った連携は、担当者の異動で一気に崩れる危うさを抱えます。データの入り口と出口を仕組みで固定することで、後続の分析や自動化が初めて安定して回り始めます。
事例2: ERPによる受発注・在庫・会計の一元管理
2つ目の改善事例は、海外拠点で表計算ソフト依存から脱却したERP導入です。
OBCの事例発信によると、この海外拠点では複数人作業により入力・操作ミスなどのケアレスミスが起こりやすくなり、請求書の発行漏れが発生していました。
加えて、表計算ソフトによる属人的な管理が行われていたため、正確な在庫数や残高をリアルタイムに把握・共有することが困難な状況にありました。
同社はクラウドERPの導入により、ロジスティクス側で入力したデータが会計側へシームレスに連携され、売上・在庫をタイムリーに把握できるようにしました。あわせて、会計側でも見通しが立てやすくなり、月末の残高確定に伴う不安定さが低減したとまとめています(参照 *7)。
海外拠点特有の少人数運営という事情はあるものの、表計算ソフトに残る属人化を、業務システムの連携で解く発想は国内にも通じます。
在庫と会計を別々に管理している限り、月末の突き合わせは担当者の記憶に頼る作業となります。データの流れを一本化することが、リアルタイム把握と引き継ぎのしやすさを同時に生みます。
事例3: MES導入による製造現場の在庫可視化
3つ目の改善事例は、製造現場に製造実行システム(MES)を入れて在庫と工程を見える化した取り組みです。
MESを導入すれば生産ラインの各製造工程を可視化することで、原材料や部品の在庫・工程進捗などがリアルタイムで管理部門へ伝達され、作業者への指示・支援がスピーディーに行えるようになります。これまで作業者の経験や勘に頼っていた技術・ノウハウをデータとして蓄積・共有でき、実績をもとに作業手順や注意点などをマニュアル化することで、新人育成など教育にかかる時間・コストも削減できます(参照 *8)。
労働政策研究・研修機構の調査は、ものづくりの工程・活動において1つの工程・活動でもデジタル技術を活用している企業の割合が83.7%であり、従業員規模「50人以下」で79.0%、「301人以上」で90.8%と規模拡大に伴い高まることを示しました(参照 *9)。
MESは在庫管理システムそのものではなく、工程の実行状況を捉える仕組みですが、在庫の動きを工程と結び付けて把握できる点に価値があります。
デジタル活用の広がりを踏まえると、現場データを止めずに管理部門へ流す設計が現実的な選択肢となります。
事例4: AIエージェントによる生産・在庫の統合管理
4つ目の改善事例は、生産と在庫の情報をAIエージェントが横断的に扱う取り組みです。
INDUSTRIAL-Xの発信によると、AIエージェントは製造現場の「人・設備・在庫・進捗」といった情報をリアルタイムに把握し、最適な判断を支援するAIソリューションです。
AIが工場のあらゆるデータを統合し、進捗のトラッキング、原価見積と実績の比較、属人化しがちなノウハウのナレッジ化、帳票作成の代行といった業務を自律的に実行し、現場業務の可視化・標準化・自動化を実現します(参照 *10)。
日立製作所は、業務・拠点などで分断され多様な形式で保管されている物流データを統合し、KPIの状況の可視化から分析・施策検討、実行調整までを支援することで、サプライチェーン全体を俯瞰できるプラットフォームとして現状把握を容易にすると紹介しました(参照 *11)。
AIエージェントの領域は発展途上であり、現時点で自律的にできる範囲と将来像は分けて捉える必要があります。既存データが十分に整っていることが前提条件になる点を意識したいところです。
事例5: AIによる需要予測と自動発注
5つ目の改善事例は、AIによる需要予測と値引き判断で発注・販売業務を標準化した取り組みです。
需要予測システムの導入により、個人の経験やスキルに依存せずデータを読み込むだけでアルゴリズムが自動で予測・分析を実行し、新人・ベテランを問わず操作しやすい形で需要予測を立てられるようになり、業務品質の均一化を実現できます(参照 *12)。
バローホールディングスの発信によると、CLOUD AI値引は販売実績、販売価格、在庫、客数予測、天候などのデータを基に条件に応じたタイミングと値引率を予測し、その結果を値引アラートとしてフレキューブの画面に表示します。同社はスーパーマーケットの藤三において、値引き額の判断から商品に貼り付けする値引きシール発行までを一連の業務として完結できるため、担当者の経験値に左右されず担当者間で同じ手順で値引き対応が可能になったとまとめました(参照 *13)。
予測精度は業種やデータの蓄積量に左右されるため、導入直後から万能に働くわけではありません。発注・値引きという判断業務を切り出し、AIに担わせる範囲を段階的に広げる進め方が現実的です。
属人化解消を実現する改善の進め方
業務の可視化とムダ・ムラ・ムリの特定
改善の第一歩は、現状の在庫管理業務を洗い出し、ムダ・ムラ・ムリを特定することです。
日本ビジネスマネジメント協会は、現場業務にどのようなムダ・ムラ・ムリがあるかを特定するために、業務分析シートを使って整理する流れが効率的であるとまとめました。
同協会はまた、手順のムラは人によってやり方が異なることで、特定の担当者以外に作業ができない業務の属人化を引き起こす可能性があると指摘しました(参照 *4)。
Shippioの調査は、その背景に、必要性を認識しながらも手作業や属人的な管理から脱却しきれないアナログな業務体制があると示しました(参照 *2)。
在庫管理の現場では、入庫・棚入れ・ピッキング・棚卸といった作業ごとに、担当者ごとの手順の差が積み重なりやすい傾向があります。手順のムラを洗い出す作業は、属人化の温床を炙り出す実務的な出発点になります。
標準化・マニュアル化とKPI設定
洗い出したムダ・ムラ・ムリを、標準化とKPIで定着させる段階です。
日本ビジネスマネジメント協会は、可視化した業務のムダ・ムラ・ムリに対して「やめる」「減らす」「変える」の視点で業務改善を考えることをまとめました。
同協会はさらに、まずどのような変化を目指すのかの目標と、目標を実現させるための重要評価指標(KPI)を設定することが効果的であるとしました(参照 *4)。
独立行政法人情報処理推進機構は、DX推進指標の全指標について現在値が1.67、目標値が3.34で、その差は1.67に上り、経営視点指標およびIT視点指標でもほぼ同様の差があると公表しました。
目標達成のためには「DXのための経営の仕組み」と「その基盤としてのITシステムの構築」を両輪として、目標策定とアクションを実行する必要があるとまとめました(参照 *3)。
在庫管理に即したKPIとしては、在庫回転率、棚卸差異、誤出荷率などが候補となります。マニュアル化した手順と数値目標をセットで運用することで、改善が個人の努力ではなく仕組みとして残ります。
ツール導入と失敗を避ける注意点
ツールは、順序を誤らずに導入することがポイントです。
日本ビジネスマネジメント協会は、業務改善の成果を確実に得るには、投資を行う前に業務のムダ削減に取り組むことが必要であるとまとめました(参照 *4)。
Hacobuの発信によると、物流現場では日々、注文・在庫・出荷に関する大量のデータが生まれる一方で、そのデータは複数のシステムに分断されており、連携のために毎日手作業でのダウンロード・加工が発生したり、都度プログラム開発を外注したりするケースが後を絶ちません(参照 *6)。
独立行政法人情報処理推進機構は、DX推進人材の量の確保状況について、日本では「やや不足している」「大幅に不足している」の合計が85.5%であり、大半の企業でDX推進人材が不足している状態にあると公表しました(参照 *14)。
これらを踏まえると、ツールは「ムダを削り、標準化した業務に載せる」順序で選ぶことが要点になります。人材が限られる前提で、まず可視化と標準化の効果が出る領域から着手するのが安全です。
小さく始めるなら、ノーコードツールという選択肢も
在庫管理を改善したいものの、「いきなり大規模なシステムを導入するのは難しい」という企業では、ノーコードツールを活用して必要な部分から仕組み化する方法もあります。
クラウド型ノーコードデータベース「@pocket」なら、プログラミングの専門知識がなくても、自社の業務に合わせた管理アプリを作成できます。在庫情報を一元化して複数人で共有するなど、属人化している業務の可視化・標準化から段階的に始められます。
おわりに
在庫管理の属人化は、担当者の経験や勘に依存した情報伝達と手順のムラが積み重なり、欠品・過剰在庫・誤出荷という損失として現れます。改善事例5選が示すのは、データ統合基盤・ERP・MES・AIエージェント・需要予測AIのいずれも、可視化と標準化を土台に置いたうえで自動化が効いてくるという共通の構図です。
進め方としては、業務分析シートによる可視化から始め、「やめる・減らす・変える」で標準化し、KPIを設定してから、ツールを段階的に載せていく流れが現実的です。ツール導入を先行させず、業務改善を前提に置く姿勢が、属人化解消を長く支える柱になります。
参照
- (*1) NRI – DX時代における物流倉庫自動化のポイント | レポート | 野村総合研究所(NRI)
- (*2) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 関税・為替・国際情勢の変化に、輸出入企業の約8割が「把握・対応で後手」
- (*3) IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 – プレス発表DX推進指標の自己診断結果1,349件を分析したレポートを公開
- (*4) 公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会 – 業務プロセスを再構築:ムダを排除し利益率を高めるBPRの原則
- (*5) METI(経済産業省) – 需要予測の誤差の解決手段として追加的に改善・実施すべき要素
- (*6) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – データドリブンな物流経営へ–AI分析基盤「W3 Dataplatform」、共創パー
- (*7) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 日本のキャラクターグッズを世界に届けるエスケイジャパン、米国法人の会計・販売管理を刷新
- (*8) METI/経済産業省 – 第4節 デジタル技術の活用によるサプライチェーンの強靱化:通商白書2021年版(METI/経済産業省)
- (*9) 調査シリーズNo.265「ものづくり産業の人材育成・処遇とデジタル化に関する調査結果」|労働政策研究・研修機構(JILPT)
- (*10) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 【資金調達】デジタル変革による産業構造変革を推進するINDUSTRIAL-X、19.3
- (*11) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 日立、物流統括管理者(CLO)向けソリューション「Hitachi Digital So
- (*12) 中小企業基盤整備機構(SMRJ) – 経験と勘で損していませんか? 需要予測システムでロスを無くそう! | 特集 | ここからアプリ
- (*13) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 惣菜の値引き判断にAIを活用、シール発行まで業務を標準化 「AI値引きソリューション」
- (*14) DX動向 2025













