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脱エクセル管理の限界を示す4つのサインと移行チェックポイント

Excelの限界と移行チェックポイント

この記事のまとめ

Excelは業務管理の入口として広く使われてきましたが、規模や関係者が増えるほど同時編集や情報共有、集計の面で限界が見え始めます。本記事では、脱エクセルを検討する担当者に向けて、限界を示す4つのサインと移行判断の観点を整理します。全体像は次のとおりです。

  • 限界のサインは、同時編集の競合、情報共有と権限管理の破綻、業務の属人化、データ活用の停滞の4つ
  • 放置すると、業務効率・意思決定・情報セキュリティの各面で影響が広がる
  • 移行判断は、業務プロセス・データと運用・組織とコストの3側面で点検する
  • 実践は対象業務を絞ったスモールスタートから始め、内製と外部支援を使い分ける

脱エクセル管理の前提知識

Excelは既存システムの隙間を埋める受け皿として広がってきたため、脱エクセルを議論する前に、Excelが担ってきた役割と「限界」の中身を押さえておく必要があります。

Excel管理が広がった背景

Excelは表計算の汎用性の高さから、業務管理の初期ツールとして多くの現場で採用されてきました。基幹システムを補う形で、担当者が自ら計算式や様式を組み立て、日々の記録や集計に使う運用が広く根付いています。

香川大学では部門別管理が主で、プロジェクトや教員単位の執行状況が把握しにくい構造にありました。そのため、プロジェクトの予実管理担当者が財務会計システムとは別に、プロジェクト単位で独自にExcelファイルを作成して管理していました(参照*1)。

Excelが選ばれてきた理由は単なる好みではなく、既存システムの粒度や柔軟性の隙間を埋める必要性にあります。したがって、脱エクセルを議論する際は、Excelが担ってきた役割の中身を先に見極めることが出発点です。

脱エクセルと限界の定義

本記事では、脱エクセルを「Excelの全廃」ではなく、業務管理の主軸をExcelから他の仕組みへ移すことと定義します。東北経済産業局も、デジタル化の初期段階では、紙やアナログで持っていた生産量・利益・顧客等の情報をデジタル化し、はじめはエクセル等への出力機能のあるソフトから始めることを勧めています(参照*2)。

一方で情報処理推進機構(IPA)は、既存システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化した状態では、データを十分に活用しきれず、新しいデジタル技術を導入してもデータの利活用・連携が限定的となり、その効果も限定的になると指摘しました(参照*3)。

本記事の「限界」とは、Excel単体の機能不足だけではなく、Excelを主軸に据えたままでは業務データを組織全体で活用しにくくなる状態です。

エクセル管理の限界を示す4つのサイン

限界のサインは、同時編集の競合、情報共有と権限管理の破綻、業務の属人化、データ活用の停滞の4つに表れます。

サイン1: 同時編集とバージョン競合

1つ目のサインは、同じファイルを複数人で扱う場面での競合や版のずれです。誰が最新版を持っているのかが分からなくなり、修正が上書きされる状況が起きやすくなります。

香川大学の従来の作業フローでは、財務会計システムからCSV形式で必要なデータを手動で出力して編集・保存し、都度資料を作成してメール送付や会議で報告していました。内製開発後は、Microsoft Power Automate DesktopとMicrosoft Power BIの導入により、財務会計システムの立ち上げからExcel形式でのデータ保存、システムを閉じるまでの一連の流れが自動化されました(参照*1)。

Excelを介した都度作成とメール送付の運用では、情報が一元化されない状態が生じ得ます。同じ情報を各自が別ファイルで持つ状態が続いているなら、限界のサインとして受け止める必要があります。

サイン2: 情報共有と権限管理の破綻

2つ目のサインは、ファイルが各所に散在し、誰がどの版にアクセスできるかを管理しきれない状態です。

宮城大学の学生対応では、電話メモやメールをもとに電話処理箋を作成し、紙の様式を回覧していました。回覧後は個人で保管するか、学内の共有フォルダのどこかに保管する流れとなり、その場の情報共有と事務処理にとどまって、今後の学生対応につなげられていない状態が報告されています(参照*4)。

IPAの中小企業向け調査でも、「新たな脅威や攻撃の手口を知り対策を社内共有する仕組みはできていますか」に該当する企業は37.9%、「情報セキュリティ対策をルール化し、従業員に明示していますか」は39.2%と、社内共有やルール化の実施率は低い水準です(参照*5)。

ファイルの置き場所と共有ルールが揃わないと、情報は集まっても次の判断に活かせません。共有フォルダの中で誰も探せない状態が続いているなら、権限管理と運用ルールを見直す時期に来ています。

サイン3: 業務の属人化とブラックボックス化

3つ目のサインは、特定の担当者しか触れないExcelや自動化ツールが増え、担当者不在時に運用が止まるリスクが高まっている状態です。

情報処理学会の報告では、各担当者が自身の担当する作業の一部を自動化するにとどまり、「業務ごとに自動化に利用したツールが異なる」「担当者のスキルレベルの違いにより自動化の範囲やレベルに差が生じる」「部分最適化され再利用できない」「作成者以外がメンテナンスできない」といった課題が挙げられました(参照*6)。中小企業基盤整備機構も、突発対応や割り込みが多く計画的に進めにくい業務では、担当者本人しか分からない設定や運用が増えていくと指摘しています(参照*7)。

厚木市の事例では、ダッシュボードは専門知識のない財政課職員が半ば執念で作り上げたものであったため、データ構造が複雑で属人化し、継続運用に向けてメンテナンス面に課題を抱えました(参照*8)。

属人化はExcelだけの問題ではなく、内製ツール全般に起こり得ます。作成者以外がメンテナンスできない状態が積み上がっているなら、業務の可視化と引き継ぎ設計を検討する時期です。

サイン4: データ活用と集計の限界

4つ目のサインは、Excelにデータが蓄積されていても、集計や分析、他システムへの二次利用に手間がかかり、活用が進まない状態です。

IPAによると、データの入力や転記には人手が介在するケースが多く、負担が大きいだけでなく、個人の習熟度や認識の違い、うっかりなどによるミスを招きやすくなります。その結果、データ全体の品質や二次利用における信頼性の低下を引き起こします(参照*3)。

中小企業基盤整備機構の調査では、DXに期待する成果・効果として「コスト削減、生産性の向上」が39.6%、「業務の自動化、効率化」が36.8%と高い割合を占め、「データの一元化、データに基づく意思決定」も24.5%でした(参照*9)。

入力段階で品質が揺らぐと、Excelで関数や集計機能を使っても、後工程の分析はやり直しが増えます。データを一元化して意思決定に使いたいという期待とのギャップが、限界のサインとして表れています。

データを一元化して意思決定に活用していくためには、Excelだけで管理を続けるのではなく、複数人が同じデータを共有・更新できるクラウド型データベースや業務アプリへ、管理の主軸を移していくことも選択肢の一つです。

たとえば、ノーコードで業務アプリを作成できる「@pocket」(公式HP)では、Excelで管理していた業務をクラウド上のアプリへ置き換え、情報を一元的に管理できます。

限界を放置するリスクと経営インパクト

限界を放置すると、手作業の工数、意思決定の遅れ、情報セキュリティの3方向で影響が広がります。

業務効率と生産性への影響

Excel管理の限界を放置すると、手作業の集計や転記が積み上がり、担当者の工数を圧迫します。

香川大学では前述の自動化により、資料を対象者ごとに作成する必要がなくなり、メール送付も自動化されたことで、処理時間は45分から7分10秒に短縮されました(参照*1)。情報処理学会の別事例では、いずれの業務についても90%以上の時間削減を達成し、年間で合計約68時間の時間削減を実現しています(参照*6)。東北経済産業局が紹介する事例でも、工具収集に必要な時間は30分から3分に減少しました(参照*2)。

類似の定型作業が積み上がっている場合、これらの時間削減幅は自社の削減余地を見立てる目安になります。

データ活用と意思決定の遅れ

Excelでデータが分散したままだと、集計や比較に時間がかかり、意思決定のスピードが落ちます。

IPAは、データ項目の定義書などが整備されていない場合や、ベンダーに丸投げしていて組織で一元的に管理されていない場合、データの相互運用が難しくなるとしました(参照*3)。中小企業白書によると、「顧客データの一元管理・データ利活用」や「営業活動のオンライン化」は、DXの取組段階が高い企業ほど実施率が高く、DXの推進やビジネスモデルの変革に効果の高い取組と示唆されています(参照*10)。

総務省の情報通信白書では、生成AIの活用推進による自社への影響として、日本では「業務効率化や人員不足の解消につながる」が最も多く挙げられました(参照*11)。効率化への期待が高まる一方で、日々の意思決定に使うデータがExcelに閉じていると、期待と現状の差が広がります。日常判断の場面で資料が揃うまで待たされる時間が発生していないかが、点検の目安です。

情報セキュリティと属人化リスク

ファイルの散在や属人化した運用は、事業継続と情報セキュリティの両面でリスクを高めます。

IPAの中小企業向け調査では、「自社診断」の25項目を「実施している 4点」「一部実施している 2点」「実施していない 0点」「わからない -1点」で点数化して採点したところ、合計点が高い企業ほどサイバーインシデントによる影響を「特になし」と回答した割合が高い傾向にありました(参照*5)。

中小企業基盤整備機構によると、情報システム担当を1名で担当しているケースは21.3%から24.5%に増え、そもそも情報システム担当を置いている企業の割合は減少しています(参照*7)。IPAは「情報セキュリティ5か条」に「バックアップを取ろう!」を新たに追加し、情報セキュリティ6か条としました(参照*12)。

担当者一人にファイルとノウハウが集中している状態は、退職や不在で運用が止まる可能性を高めます。バックアップと共有ルールを含む基本対策は、Excel運用の点検と合わせて見直す対象です。

移行判断のチェックポイント

移行判断は、業務プロセス、データと運用、組織とコストの3側面で自社を点検すると、優先順位がぶれにくくなります。

業務プロセス面のチェック

最初の観点は、業務プロセスの中でどこがボトルネックになっているかを見極めることです。中小企業白書では、社内のボトルネックを特定し、できるところから必要最小限の取組を行う「身の丈DX」で作業負担を削減する考え方が示されています(参照*13)。

J-Net21が紹介する事例では、「使っても使わなくてもいいシステムだったら、使いたい人以外は使わない。それなら、絶対に使わなくてはいけない業務からシステム化しよう」という考えに行き着きました(参照*14)。

同時編集の頻度、更新回数、関係者数、避けられない業務かどうかといった観点で対象業務を並べて比較すると、判断がぶれにくくなります。使わざるを得ない業務から順に着手するのが有効です。

データと運用面のチェック

次の観点は、扱うデータの量と品質、そして運用の成熟度です。

中小企業基盤整備機構の調査では、DXに取り組むに当たっての課題は「ITに関わる人材が足りない」が28.3%、「予算の確保が難しい」が26.0%、「DX推進に関わる人材が足りない」が25.6%の順でした(参照*9)。IPAのDX推進指標の分析でも、全項目平均値を提出企業ごとに算出してレベルごとの分布を見ると、レベル3未満の企業が約7割を占めました(参照*15)。

行政情報システム研究所の「行政デジタル化実態調査」でも、自治体がデジタル化を推進する上での懸念や障壁は「予算が厳しい」「庁内に最適な人材がいない」との回答が多く、予算化の問題と人材不足が大きな障壁となっています(参照*16)。

データ量、入力ミスの発生頻度、担当者依存度を並べて点検すると、Excel運用の耐用範囲が見えてきます。定量値は目安として使い、自社の水準と重ねる姿勢が現実的です。

組織とコスト面のチェック

最後の観点は、推進体制、人材育成、そして活用できる支援策の3点です。

中小企業白書では、IT導入補助金は労働生産性を高めることを目的として、業務効率化に資するソフトウェア、サービスの導入費用を支援する制度と説明されています(参照*13)。中小企業基盤整備機構の調査では、DX推進のためのビジョンや経営戦略・ロードマップを「策定済」の企業は9.3%、「策定中」が24.7%、「未策定」が66.0%でした(参照*9)。

行政情報システム研究所の調査では、IT人材の採用や育成方針について全体の44%が「職員全体の底上げ」と回答した一方で、職員に対するIT研修の実施には課題が多いと示されました(参照*16)。

支援策は制度改定があり得るため、活用時は最新の要件を確認する必要があります。ロードマップの有無と育成方針をあわせて棚卸しすると、投資判断の順序が定まります。

脱エクセルの実践アプローチ

脱エクセルの実践は、対象業務を絞ったスモールスタートで始め、内製と外部支援を使い分けながら進めるのが現実的です。

スモールスタートと業務の棚卸し

中小企業白書では、必要最小限の取組からDXを進めることで、資金や人材といったリソースが限られる中でも効率的に社内のデジタル化・DXに取り組む企業の事例が紹介されています(参照*13)。東北経済産業局は、STEP1として数値等の情報をデジタル化し、STEP2として情報を整理・利活用し、STEP3として業務をデジタル化していく段階を示しました(参照*2)。

J-Net21が紹介する事例では、管理側の都合ではなく「現場を楽にする」ことをポイントに進めたことで、デジタル化がうまく浸透しました(参照*14)。

業務を棚卸しし、優先度の高いものから順に置き換えていく流れが、無理のない導入につながります。現場の負担軽減を判断軸に置くと、抵抗の少ない導入が期待できます。

Excelから段階的に移行するならノーコードツールも選択肢

Excelからの移行では、最初からすべての業務をシステム化する必要はありません。
たとえば「案件管理だけ」「日報だけ」「問い合わせ管理だけ」と対象を限定し、効果を確認しながら対象業務を広げていく方法があります。

クラウド型ノーコードツール「@pocket」(公式HP)では、プログラミングの専門知識がなくても、業務に合わせたデータベース・業務アプリを作成できます。Excelで管理している業務の一部からクラウド化したい場合にも、スモールスタートで取り組むことができます。

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内製化と外部支援の使い分け

移行を進める際は、内製と外部支援のどちらに寄せるかの判断も必要です。

IPAは、データマネジメントには組織的なマネジメントが必要であり、データマネジメントを遂行する人材育成、教育研修などを統括することが求められるとしています(参照*3)。中小企業基盤整備機構も、すべてを社内で完結させようとしない姿勢が欠かせず、一次対応や定型作業は外部に委ね、専門性が求められる領域はスポットで専門家を活用することを勧めています(参照*7)。

一方で中小企業白書では、「IT部門など、DXの専門部署」を設置してDXを進めている企業で、全社的なDXの取組状況が最も進展している傾向にあると示されました(参照*10)。

内製に寄せすぎると属人化しやすく、外注に寄せすぎるとノウハウが残りにくくなります。定型は外に出し、判断や設計は社内に残す切り分けが実用的です。

公的機関・企業の事例

紙やExcel、既存の個別システムに分散した情報を一元化した公的機関と企業の事例では、いずれも集約の起点を明確にしている点が共通しています。

厚木市は2024年に「厚木市財政見える化ダッシュボード」を内製開発しました。財政課職員が中心となってMicrosoft Power BIで作成したもので、事業ごとの予算要求状況を年度別に細かく可視化できます(参照*8)。

中小企業白書では、8社の中小企業が意見を出し合って共同でオリジナル生産管理ソフトを開発し、その導入により生産性が向上したうえ、過去の生産データを活用して不良率も削減した事例が紹介されています(参照*13)。

宮城大学では、これまで集めた学生の情報を学務管理システムの学生カルテや履修状況、成績や学籍の情報などメニューごとに開いて確認する必要があったため、これらの課題を解消できるようSalesforceに情報を集約しました(参照*4)。

事例の成果は各組織の条件下で得られたものであり、自社の前提と重ねて読み解く必要があります。

おわりに

Excel管理の限界は、同時編集の競合、情報共有と権限管理の破綻、業務の属人化、データ活用の停滞という4つのサインに集約されます。これらを放置すると、業務効率、意思決定、情報セキュリティの各面で影響が広がり、担当者一人への負荷も積み上がっていきます。

移行判断は、業務プロセス、データと運用、組織とコストの3側面で自社を点検し、優先度の高い業務から対象を絞って進めるのが現実的です。公的機関や中小企業の事例を参考にしながら内製と外部支援のバランスを取れば、次の一歩を設計できます。

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参照